圧巻は、表紙にもある『國の楯』のアップ写真の数々や解説。解説(植田彩芳子)によれば、この作品は天覧に供するために陸軍省の要請で描かれたと伝わるも、受け取り拒否をされ秘匿されたという。戦意高揚にふさわしくないとの判断だろうが、その影響が強く、かれの作品は永く歴史に埋もれていたのだろうか。興味深いのは、この作品には下絵もあり、また、当初の桜絵が黒く塗りつぶされた跡がはっきりと見て取れるというあたりだ。タイトルも変遷があった由で、作者自身が戦争画というものに対して心を種々に変化させていた証であろうし、解説者の言葉に強く共感もし、実物を見たい衝動にかられる。
この作品は、観者それぞれの文脈の中で、多様な解釈を可能とする。そのことも、この作品の魅力の一つといえるかもしれない。(中略)秋聲はこの作品を描くにあたり、二回ほど加筆をして一旦、一九四四年二月に完成させたとわかる。その際に、タイトルを変えたのであろう。戦後(中略)秋聲はさらに改作し、現在のようになった。
実物を見る代わりとして図録を入手したけれども、案の定、余計に実物を見たくなった。来年、鳥取での展覧会に行くとするかなあ。
最近の読書10冊(願望を含む)
- 迷子の魂(絵本)Olga Tokarczuk(作) Joanna Concejo(絵)
- 男らしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2020年12月号/らしさについて考える②)
- 杜甫の作った冷やし麺(執筆)興膳宏(『図書』岩波書店定期購読誌2020年12月号)
- 東洋堂古書目録 令和2年秋号
- しろいみつばち きくちちきの絵本(暮しの手帖Winter 2020-21 特別付録)
- 和歌史 なぜ千年を越えて続いたか(角川選書)
- おふろでちゃぷちゃぷ 松谷みよ子(文) 岩崎ちひろ(絵)
- 宮津昭彦集 自註現代俳句シリーズⅠ期16
- 永遠の緑 浅田次郎著 KEIBA CATALOG vol.18
- 英語発達小史(岩波文庫)H.ブラッドリ著 寺澤芳雄訳