予備知識なしに読んだ。何者? 強靱な心眼でヒトとの対話の表も裏も奥までも瞬時に読解反応して、押しつけがましくない思いやりに満ち満ちた言動を返せる人。相手が心閉ざしたおとなであろうと、無邪気にみえる幼児であろうと、姿勢は変わらない。そんな神仏さながらの優しさをもつ彼女は、自身が食べることも眠ることもできないほどの地獄の苦に沈んだ過去の傷跡さえも静かに観察して、心眼の深度を上げてきたようだ。
ひとの声に耳を傾けることを仕事にした沖縄在住の研究者であり、インタビュアーであり、幼子の母であり、今を生きる人間代表として、解決の見えない問題をおだやかな言葉にして紡いでいる。彼女のまえでは、沈黙もまた雄弁。
そうやって聞き取ったほとんどは、しばらくのあいだは書くことができないことだ。語られることのなかった記憶、動くことのない時間、言葉以前のうめき声や沈黙のなかで産まれた言葉は、受け止める側にも時間がいる。
逡巡と沈黙の時間をふたりでたどり、それから話はぽつんと終わる。そして最後は静かになる。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 声無くして人を呼ぶ(執筆)川端知嘉子(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号/巻頭)
- おさがしの本は 門井慶喜(著)
- 穴 小山田浩子(著)
- 工場 小山田浩子(著)
- ヴァン・ゴッホ・カフェ THE VAN GOGH CAFE シンシア・ライラント(作)中村妙子(訳)ささめやゆき(絵)
- 手塚治虫コミックストリックス
- しもやけぐま 今江祥智(文)あべ弘士(絵)
- 壁 濱野京子(筆)大島千明(画)日本児童文学2021年1・2月号 創作特集ディスタンス
- 子どもが感じる「距離」井嶋敦子(筆)日本児童文学2021年1・2月号 創作特集ディスタンス
- 追悼 藤富保男(季刊びーぐる 詩の海へ 38号特集)