鷗外が関与した訳詩集『於母影』の研究。読み応えある鷗外研究書に仕上がっている、ゼミの大学院生らによる研究発表。昭和60年。(各氏、現在はどうされているのか、気になるような、ならないような。)
独英の詩ばかりかと思いきや、漢詩の邦訳もあり、一番の驚きは平家物語(鬼界島)の漢訳詩。すべて鷗外が訳したわけではないが、鷗外を中心とした実験的翻訳が熱心におこなわれていたのが分かる。明治という歴史の転換期にふさわしい新しい詩文化の創造を模索していたのだ。近代詩といわれる詩人たちが生まれる土壌がここにあるにちがいない。
副産物として、鷗外が薔薇好きだったことが知れるらしい。以降の日本の文学で与謝野鉄幹、北原白秋、佐藤春夫らの作品に定着していった薔薇。いかに扱われ、何を象徴しているかをみれば、時代をしる手掛かりとなるのかもしれない。そんな提言もあって興味深い。