波打ち際に生きる

このまえ読んだ松浦寿輝さんの、これまたタイトルと表紙では何の本? と思わせてくれる。内容はメインとして東京大学退官記念講演「波打ち際に生きるー研究と創作のはざまで」と彼の最終講義「Murdering the Time ー時間と現代」を収録している。東大の先生だったのね、とここで知る。総じて平易なふりをしているが、とっても洗練された文章。

かれが、波打ち際の思想家として名を掲げるのは中江兆民。こんなにも兆民を賛辞した文を見た覚えがない。失敗つづきの人生に対して、その結果ではなく生きざまを注視し、明治の危うい思想的境界領域に立ち続けた緊張感が、大成を許さなかったのだと、大成拒否という視点を教えてくれている。兆民のことをもっと知りたくなった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。