小説の映画化はひとつの潮流としてできあがっているが、いつも成功しているとは限らないだろう。興行的にどうこういう以前の問題として。文学者はどう思っているのか、映画監督はなにを狙っているのか、視聴者はなにを期待し何に満足するのか、決して一般論に収束しきれないだろうテーマを研究者らに自由に綴らせた編著作集。
目次を見ただけでも、いかに個別的な、多様性を蔵したテーマかが知れよう。
【目次】
1.イントロダクション
2.村上春樹『ノルウェイの森』―言葉の感性を映像化する手法 宮脇俊文
(トラン・アン・ユン監督「ノルウェイの森」)
3.カズオ・イシグロ『日の名残り』―諦めの文学をいかに表現したか 挾本佳代
(ジェームズ・アイヴォリー監督「日の名残り」)
4.映画の「動くイメージ」が小説家の意識を変えた―フィッツジェラルドとヘミングウェイの場合 宮脇俊文
5.フィッツジェラルド『華麗なるギャッツビー』が描いたアメリカ社会―消されたジャズ・よみがえるジャズ 宮脇俊文
(バス・ラーマン監督「グレート・ギャツビー」)
6.近世小説を近代的価値観で描いた溝口健二映画―上田秋成『雨月物語』と井原西鶴『好色一代女』 田中優子
7.二つの『楢山節考』―木下惠介の「様式の美」、」今村昌平の「リアリティの醜」 挾本佳代
8.引き裂かれた身体―『色、戒』と『ラスト、コーション』 晏妮(アンニ)
9.安部公房『燃えつきた地図』―都市の脆うさを、勅使河原宏はこう表現した デヴォン・ケイヒル(翻訳:金原瑞人、井上里)
(勅使河原宏監督「燃えつきた地図」)
10.「生き方」を問いかけるドキュメンタリー映画もまた文学 池内 了
(大津幸四郎・代島治彦監督「三里塚に生きる」、佐藤真監督「阿賀に生きる」)
11.インタビュー:篠田正浩(映画監督)
12.インタビュー:山田太一(脚本家)