
圧巻は、表紙にもある『國の楯』のアップ写真の数々や解説。解説(植田彩芳子)によれば、この作品は天覧に供するために陸軍省の要請で描かれたと伝わるも、受け取り拒否をされ秘匿されたという。戦意高揚にふさわしくないとの判断だろうが、その影響が強く、かれの作品は永く歴史に埋もれていたのだろうか。興味深いのは、この作品には下絵もあり、また、当初の桜絵が黒く塗りつぶされた跡がはっきりと見て取れるというあたりだ。タイトルも変遷があった由で、作者自身が戦争画というものに対して心を種々に変化させていた証であろうし、解説者の言葉に強く共感もし、実物を見たい衝動にかられる。
この作品は、観者それぞれの文脈の中で、多様な解釈を可能とする。そのことも、この作品の魅力の一つといえるかもしれない。(中略)秋聲はこの作品を描くにあたり、二回ほど加筆をして一旦、一九四四年二月に完成させたとわかる。その際に、タイトルを変えたのであろう。戦後(中略)秋聲はさらに改作し、現在のようになった。
実物を見る代わりとして図録を入手したけれども、案の定、余計に実物を見たくなった。来年、鳥取での展覧会に行くとするかなあ。
最近の読書10冊(願望を含む)
- サン=テグジュペリ Saint-Exupéry R.M.アルベレス(著)中村三郎(訳)1998年改訂版
- においのカゴ 石井桃子創作集 大西香織(編集)
- 日本美術のことばと絵 玉蟲敏子(著)角川選書571
- 考える江戸の人々 自立する生き方をさぐる 柴田純(著)
- だまされ屋さん 星野智幸(著)
- 日本幼児史 子どもへのまなざし 柴田純(著)
- 雪の森のリサベット アストリッド・リンドグレーン(作)イロン・ヴィークランド(絵)石井登志子(訳)
- 子どもらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号/らしさについて考える③)
- ブリキの卵/この世は少し不思議 恩田陸(著)「タマゴマジック」所収・河北新報出版センター発行
- 分断を超えるハンセン病文学の言葉(執筆)木村哲也(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号)