150年前のイギリス発のユートピア譚は宗教(この場合はキリスト教)軽視や優生思想に対する強烈な風刺だったのかもしれませんが、現代人からすれば警告・預言の書だったのに、われわれは残念な道を選択し続けているとしかいえない。そんな意味で新訳のもとに本書を読む価値は、陳腐な政治家発言やニュースバラエティ番組を眺める何万倍もあるぞ。
主人公が憧れて旅したエレホン国では人びとの体が奇跡的にというほど美しい。一例をあげれば、女性の表情は女神のようであり、男性はエジプトとイタリアとギリシャのハンサムのいいとこ取りをした顔立ちとか。経済や宗教についても知れば知るほど、・・・あとは略。
装幀についても一言。じつにオシャレだ。カバーに小さく開けられた四角い小窓から見えているのは、”St.Jerome Reading in a Landscape” 風景画に見せていながら聖人ジェロームの読書姿になっている(;作者はGiovanni Bellini)。キリスト教圏のひとの眼にはどんなふうに映るのだろうか。
- EREWHON エレホン サミュエル・バトラー(著)武藤浩史(訳)
- 失われた芸術作品の記憶 ノア・チャーニイ(著)服部理佳(訳)
- 問いかけるアイヌ・アート 池田忍(編)五十嵐聡美・貝澤 徹・小笠原小夜・吉原秀喜・高橋 桂・中川 裕・山崎明子・池田 忍(著)
- 撤退の時代だから、そこに齣を置く(執筆)赤坂憲雄(『図書』岩波書店定期購読誌2021年1月号/往復書簡「言葉をもみほぐす」最終話)
- 絵本の本 中村柾子著
- 藤井聡太 すでに棋士として完璧に近い(谷川浩司筆・文藝春秋2021新年特別号所収)
- 石たちの声がきこえる マーグリート・ルアーズ(作)ニザール・アリー・バドル(絵)前田君江(訳)
- 国旗のまちがいさがし 苅安望(監修)
- ひみつのビクビク フランチェスカ・サンナ(作)なかがわちひろ(訳)
- あしたはきっと デイヴ・エガーズ(文)レイン・スミス(絵)青山南(訳)