月と日本建築~桂離宮から月を観る~ (光文社新書)宮本健次著

日本人の好きな月を古今の文献から論じるのはこれまで腐るほど(言い過ぎて失礼?)あったと思うが、建築における観月の工夫という観点で検証してみせた異色の日本人論だ。建築の工夫とは緻密な計算に他ならない。その好例が桂離宮に始まるのであって、桂離宮の四季利用施設が当時1615年の中秋の名月、春分、冬至の月の出の方位、東南29度・東南9度・東南54度と完全一致して設計されていたと。その後の歴史的建築も観月のために腐心してきたのが、日本建築の歴史だった。興味深いのは銀閣寺軒下に銀箔をほどこしたのも、池に反射する月光を軒下に反射させて家の中にもたらすためだった? その推測は「月光」をキーワードに日本建築史を観る者だけがたどりつく真相にちがいない。(なぜそんなことを企てて来たかは、ヒトの願いと不即不離の思想的問題。)

驚嘆するのは、いにしえの建築家たちが工夫の意味を語らずに建物だけを遺してきた歴史だ。そうして二重に驚くのは、秘められた意味に光を当てることが出来たのもやはり建築家ということ。されば、建築家の精神史こそもっと語られるべきテーマに値すると思えてならない。

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