ミナマタ、ハンセン病、ハワイ移民、さらに、かつての植民地朝鮮の人や従軍慰安婦など、多くの場合、可哀想な人々、気の毒な人々で一括りにされてきた人の個々の声に耳を傾け、いまだに現存するさまざまな壁を打ち壊し、声を未来へ届けたいとねがう、1961年横浜生まれの作家・羌信子さんの一途な試みが詰まった一冊だ。とにかく、念いが重い。
あまりの痛みにただうずくまるばかりの命の記憶は、語りえぬまま心の底に降り積んで、やがて石になるのだろう。沈黙の石は問いを孕み、雨に打たれ、風に吹かれ、陽に照らされ、十年、百年、千年、語られるべき物語へといつか生まれ変わるのだろう。でも、時を超えて届けられたその物語を人間は受け取ることが出来るのだろうか、
装幀がさらに声を重く仕上げている。ブックカバーに見えるのは、狼か? 文中登場の信太の森の狐のイメージなのか? カバーを外した本体に見えるのは化石? ハンセン病俳人の村越化石さんの人と作品をイメージ? 謎はなぞのままに伝承すればいい、と思わずにはいられない。1000年先へと託す壮大さに比して、自分の卑小さを恥じるばかりだ。
- 戦争は女の顔をしていない(著)スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(訳)三浦みどり
- 徹底して戦争と死について書く(執筆)沼野充義(『図書』岩波書店定期購読誌2020年11月号巻頭)
- 夢の舟唄(德永民平詩集)
- わさびの日本史 (著)山根京子
- 国家への道順(著)柳美里
- 正義のゲーム理論的基礎(著)ケン・ビンモア(訳)栗林寛幸
- 社会契約論ーーホッブス、ヒューム、ルソー、ロールズ(ちくま新書)(著)重田園江
- 40代から始めよう! あぶら身をごっそり落とす きくち体操
- スケール 上──生命、都市、経済をめぐる普遍的法則(著)ジョフリー・ウェスト(訳)山形浩生・森本 正史
- 多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)