藤沢周平 遺された手帳(文春文庫)

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朝の連ドラにしてほしい(とも思うし、しないほうが遺思に添うのかとも考える)くらい赤裸々な、有名作家の半生内面史。

 時代小説の名手藤沢周平さんは生来寡黙だったようだが、日々の心の声、叫びを胸の内にしまって生きておられた最大の要因は年若く逝った妻に対する喪失感と、遺児への人一倍の愛情にあったのだろう。それでも物書きの性なのか、日記のような形で、ありのままの思いを遺しておられたのは、大人になった一人娘に何かを伝えたい、そんな動機が潜んでいたに違いない。その暗黙の意を娘が汲み取って、さらに世に披瀝したのは父の没後20年にもなっていた。親と子のあいだには、おそらくどの家族でも、本当に分かりあうのにはそれほどの期間が必要なのではないだろうか。(とはいえ、故人の心中は察するばかりで、真相は確かめる術などないのだが。)

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