図書(岩波書店定期購読誌)2020年10月号

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圧巻は桐野夏生さんによる、新作『日没』をめぐる武田砂鉄さんとの対談。桐野さんは自分たちの努力もむなしく「十五年ぐらい前から、小説が人に及ぼす影響力が著しく低下したと感じています」と発言。読者というか社会が変質してきたことを嘆いている。その糸を引いているのが政治でありメディアなのだ。

表現の自由をめぐっては、あいちトリエンナーレの騒動に象徴されるように、メディアが問題のすりかえをし、次元のことなる「言いたい放題」の話題を並列して報道。そんな愚行を二人して痛烈批判している。消費されるだけの小説になることを拒絶しつづける桐野作品は今後もたのしみだ。

最後に、ひとつ気になった点がある。表現の自由をめぐる話題の中に安倍首相の名と発言が出てくるのは自然なながれだと思っていたが、 後注でわざわざ「本対談は、安倍元首相が辞意を表明する前、二〇二〇年八月四日に行われた。」と付記してあること。武田さんの発言では「以前」と述べているんだし、どうしてそんなところに気を遣うんだろうと勘ぐりたくなった。

 

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