木下利玄全歌集(岩波文庫)

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この明治生まれの歌人が遺した歌集は四冊しかない。編者によれば「宿命的とさへ見えるほどに、一首一首が執拗な推敲過程を背負ってゐる」のだ。一見凡庸に見えるのに、繰り返し読んでいるとその味わいが深まることに驚きを禁じ得ない。

わたしの一番惹かれた一首はこれ。

鮮(あた)らしきばらの剪花(きりばな)朝園(あさその)の鋏の音をきくこゝちする

 

ああ、薔薇の花を見て鋏の音が聞こえる?って感性に空気が固まる心地。

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