一番の関心(感心?)は表紙画のこと。若冲の野菜涅槃図(正確には果蔬涅槃図というけど)で飾ったセンスの佳さはすごいなあ。文中でこの画のことは、「寄り道になるが」と前置きして触れられているだけなのに。
それはそうだ、引用の世界は文献についての論述なんだから。でも日本画の世界における写実とか、写意とか称する精神・技法もまた先達の世界を引いて写し用いる伝統を継承しているといえるようだ。写生というのもあるなあ。(余談ながら、写真という言葉はほんとうに真を写すという意味合いでいいのだろうか。)
さて本書の内容は、中島敦研究の第一人者らしく、中島敦さんの「述べて作らず」精神(もとは司馬遷の言葉)を糸口にして彼の「和歌でない歌」を筆頭に、日本的な”引用する文化”を繙いていくさまは、勝又浩さんの 縦横無尽の読書読解量が存分に生かされている、って感じ。有名な藤原定家の『拾遺愚草』員外にみえる漢詩邦訳をはじめ、幾多の仏典とその疏釈文献にふれながら、実に平易なことばで語っているのは感嘆するばかり。
現代はSNSなどでいとも容易く引用できる環境が整っているが、どうも上っ面のコピペとして消耗しているのが(わたしを含めて)大方ではないか。文化としての、引用する精神を学び、取り戻す努力をしたいと思う。