鯛の島(吉村昭短編集『脱出』所収)

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『戦争孤児たちの戦後史』に出てきた舵子の登場する小説。吉村昭さんは戦中戦後を題材に、体験と綿密な取材で定評がある。

かつて瀬戸内のある島の漁師村ではお金を出して、少年らを愛媛県から伊予子と称して年季奉公に連れて来て、舵子として船で働かせていた。ところが終戦直後にGHQによって、人身売買する奴隷島と烙印を押される。それまで島民に協力的であった警察もまた、敵対勢力に変じる。そうして年季奉公者の代わりに白羽の矢が立ったのが、戦災孤児らというのだ。ちらほらと作中人物の台詞があるところは小説っぽいが、淡々と描かれる状況描写はドキュメンタリー番組のナレーションのようにも感じられる。

戦災孤児の飢餓状態、異様な風貌、歪んだ性情や挙動のリアリティ感はそれを身近に見てきた人間のそれとしか思えないものがある。

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