一昨日の『ラ・ロシュフーコー侯爵傳説』訳者・堀田善衛つながりで一読。
昭和26年の26回芥川賞に文句なしの高評価で輝いた、とか。とりわけ題材と文体が一致している点で傑出との評。
【内容】
朝鮮戦争勃発にともない雪崩のように入ってくる電文を翻訳するため、木垣はある新聞社で数日前から働いている。そこには「北朝鮮軍」を“敵”と訳して何の疑いを持たぬ者がいる一方、良心に基づき反対の側に立とうとする者もいた。ある夜、彼は旧オーストリー貴族と再会し、別れた後ポケットに大金を発見する。この金は一体何か。歴史の大きな転換期にたたずむ知識人の苦悩と決断。日本の敗戦前後の上海を描く「漢奸」併収。
【所感】
舞台は昭和25年の朝鮮戦争勃発をめぐる報道記者たちの、翻訳をめぐる状況分析の緊迫感。ひとびとの政治思想のゆらぎがハッキリと見える。
発刊当時はまさにそのままの世相と相まっていたのだろうが、今(2017)のわれわれはどこか遠巻きに歴史小説を読んでしまっているのではないか。