淋しい狩人(新潮文庫)

本のタイトルにも掲げられている最後の短編『淋しい狩人』は小説に登場する未完の小説のタイトル。なんだけど、その文章がちゃんと引用されて幕を閉じるあたりは、うまいなあ。無論、実在しないんだから、引用かどうかなんて本来確認もできないのに、読者は微塵も疑わないで受け入れるのだ、たぶん全員。すごい筆力だわ。また、小説中で、探偵小説に出てくる警察はどうのこうのと引き合いに出して、警察の力を語るあたりも巧妙にストーリー世界に没入させる小技。技と言えば、登場人物の語りについて、文庫版の解説者、大森望さんは、著者の技量をこう讃えている。

海千山千の活字中毒者たちをほろりとさせてしまう「心温まる宮部ワールド」は、計算しつくされた構成と、磨き抜かれた表現力によって支えられている。甘いだけの夢では生きられない。厳しいだけの現実では生きていく価値がない。宮部みゆきは、その微妙な境界線をみごとな語りの技術で綱渡りしながら読者に感動を与える作家なのである。(一九九六年十二月、翻訳家)

 

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