「日本はまだ普請中だ」のタイトルが写真の鴎外の口からこぼれているように思えた。遠い存在となってしまっている鴎外を平成の時代に呼び寄せたら、そんな趣向を著者は企んだんだろうか。
600ページを超え、4,000円を超える書物。著者は鴎外文学読者の知識量を鑑みて知的需要に応えんとして「簡便」かつ「詳密」の本書を仕上げた。わたしごとき小僧の太刀打ちできる代物では無いが、あえて一カ所だけコメントしたい。
石見人森林太郎として死にたいと言い残した話は有名だが、かれの法名を撰するのに、はじめ檀那寺住職が提示した案(それも凄い名案だが)に異議をとなえた人物があり、その結果、彼が敬愛した桂湖村の案"貞献院殿文穆思齋大居士"(献の字は正しくは異体字)に決したとか。異議申し立ての内容(知りたい人は自分で読んでね)はなるほどと感嘆するけれど、はてどなたであろうと気になって仕方ないのだ。また、それが彼に遺志に沿っているのか、それも疑問がないではない。
くわしい書評は荒俣宏さんのそれにゆずるのでご覧あれ。