とんでもなく凄い、そして愉しい人間がいるものだ。
「真実のため、祖国のため、ロシア語のため、言葉のためなら、わたしはナイフにでもよじ登ってみせる」と私信に綴っている。
辞典とはことばのいみを調べるためにあるとばかり思っている人が多いに違いない。ことばからことばへと、言海をわたっていく案内者そのものを創ってしまったのがウラジミール・ダーリ(1801-1872
)。ひとつの言葉の解説文から、いくつもの枝分かれが施されていて、まったく別の言葉を調べてみたくなる。そんなふうにみちびかれていく仕掛けらしい。ああ、もしもロシア語が読めたなら、現物の辞典をながめてみたい。
内容紹介
全4巻、20万語の辞書をひとりで完成させた言葉の収集家ウラジーミル・ダーリ。民衆の間で使われている生きた言葉を生涯かけて集め続け、言葉の意味や用法よりも言葉そのものの深みと広がりを伝えることに心をくだき、独自の配列の辞書にたどりついたダーリ。その後の世代にとって辞書の代名詞ともなったダーリの営みは、ロシア文化の重要な光源であると同時に、いまの私たちが抱える言葉の問題にまで届く光を放っている。名だたるロシアの作家たちが頼りにし敬意をはらったダーリの歩みを知る本格評伝。