2011年の原発事故以降、WEBでは「福島と日本」に関して信頼に足る客観的情報源を(唯一あるのを除けば)わたしは見つけられずにいたのだが、待望というに値しそうな本書を偶然見つけて即買い。で、驚く。WEBで唯一注目していたSYNODOS『福島レポート』の執筆陣の一人(というか編集長らしい)服部美咲さんの中間報告大成であり、力強いメッセージが宿っている。
客観性を担保しつつ、専門知識に疎い一般人に科学的知見を伝達するために、識者10名インタビューという形を取ったのは大正解だと思う。そうして放射線やら医学やらのプロの口から、一番知りたかった「真相」を平易なことばで引き出しているところが素晴らしい。同時に福島に根を下ろして暮らす人びとのナマの声を拾っているのは、胸の内を開陳するところまで親近した人間味の結果であろう。
日本の労災認定は純粋にサイエンスだけで決めているわけではない。そして、「これはサイエンスじゃない」ときちんと言うことも、サイエンスの仕事です。
明石眞言氏(UNSCEAR<原子放射線の影響に関する国連科学委員会>前日本代表)
(線量などの数値というものについて)「基準は目安であって、幅を持たせて考えてよいのだ」ということはもっと広く知られてよいことだと思います。
同・明石氏
心理的なケアをする場合にも、また正しい知識や情報を伝える場合にも通じることですが、これほどの被災を生き延び、生活する方々をきちんと尊敬するということはとても重要なことだと思います。
前田正治氏(福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座主任教授)
(甲状腺検査の一律推奨などをめぐる問題に関聯する話題・・・)
大きな不安を抱えて、何度も医療機関を受診して、それでも解決しないという方が、私のところにいらっしゃることがあります。私は、まずその方に、「こんがらがっちゃっているよね」と言うんです。・・こんがらがっちゃったものは、医師が患者さんから取り上げて、解いてしまうのではないんです。・・・医師と患者さんが一緒に見つけて解いていかない限り、問題は解決しないんじゃないかと思っています。
緑川早苗氏(内科医、専門は内分泌内科学。原発事故後の甲状腺検査に従事した経験から、住民の甲状腺検査に関する疑問や不安に対応する活動を開始した)
抄出しだしたらきりが無いから、休止。佳い本だ。何度でも読もう。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 「おばさん」がいっぱい(執筆)三辺律子(『図書』岩波書店定期購読誌2021年4月号/本をひらいた時)
- 七万人のアッシリア人 ウイリアム・サローヤン(著)斉藤数衛(訳)現代アメリカ作家集上巻所収1971年初版
- 季(とき)間中ケイ子(筆)ほか/日本児童文学2021年3・4月号 特集25年後の子どもたちへ
- カフカらしくないカフカ 明星聖子(著)
- 雪の練習生 多和田葉子(著)
- 物理の館物語(著者不明)/小川洋子『物理の館物語』参照(柴田元幸編『短篇集』所収)
- 『還れぬ家』『空にみずうみ』佐伯一麦(著)
- 十一年目の枇杷(執筆)佐伯一麦(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/巻頭)
- もっともらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/らしさについて考える④)
- 【続】フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い化面』小野正嗣(筆)NHK100分de名著