150年前のイギリス発のユートピア譚は宗教(この場合はキリスト教)軽視や優生思想に対する強烈な風刺だったのかもしれませんが、現代人からすれば警告・預言の書だったのに、われわれは残念な道を選択し続けているとしかいえない。そんな意味で新訳のもとに本書を読む価値は、陳腐な政治家発言やニュースバラエティ番組を眺める何万倍もあるぞ。
主人公が憧れて旅したエレホン国では人びとの体が奇跡的にというほど美しい。一例をあげれば、女性の表情は女神のようであり、男性はエジプトとイタリアとギリシャのハンサムのいいとこ取りをした顔立ちとか。経済や宗教についても知れば知るほど、・・・あとは略。
装幀についても一言。じつにオシャレだ。カバーに小さく開けられた四角い小窓から見えているのは、”St.Jerome Reading in a Landscape” 風景画に見せていながら聖人ジェロームの読書姿になっている(;作者はGiovanni Bellini)。キリスト教圏のひとの眼にはどんなふうに映るのだろうか。
- 「おばさん」がいっぱい(執筆)三辺律子(『図書』岩波書店定期購読誌2021年4月号/本をひらいた時)
- 七万人のアッシリア人 ウイリアム・サローヤン(著)斉藤数衛(訳)現代アメリカ作家集上巻所収1971年初版
- 季(とき)間中ケイ子(筆)ほか/日本児童文学2021年3・4月号 特集25年後の子どもたちへ
- カフカらしくないカフカ 明星聖子(著)
- 雪の練習生 多和田葉子(著)
- 物理の館物語(著者不明)/小川洋子『物理の館物語』参照(柴田元幸編『短篇集』所収)
- 『還れぬ家』『空にみずうみ』佐伯一麦(著)
- 十一年目の枇杷(執筆)佐伯一麦(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/巻頭)
- もっともらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/らしさについて考える④)
- 【続】フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い化面』小野正嗣(筆)NHK100分de名著