いまや、ことばを失った日本社会、ということになるのだね。
1980年代の若者のことば・コミュニケーションを題材に、社会の変容を眺めながら、これは近代以降の日本人論なのだ(とまでは著者は断じてないが)。明治維新の時も、昭和の高度成長期も、甘えあって生きる日本人は「迷惑をかけない」ことが最上の道徳と信じて、結局は他者との対立を回避する道ばかり選択してきちゃった(という実例をいっぱい挙げているのが本書)。
その意味では、平成令和に至っても本質は変わらず、もはやことばを信用できない大人ばかりで社会を回しているのだ。著者は、1980年代は話を聞いて欲しい若者ばかりが出来上がったといい、それは聞き手のいない社会だと訴えている。現代のSNS隆盛はその極みといえる。
話者と話者が激しくぶつかるように見えることもあるが、多くは、なるべく上手に撤退することを模索し、腹の中は見せずに取りあえず「イイネ」で繋がってみせる。本書は何の解決策も提示していないが、出来なかったのが真相だろう。日本は今なおずるずると、「力のあることば」喪失街道を突き進んでいるのだ。
それだから、わたし(を含めて多くの者)は、日々にことばを紡いで、抗う素振りを見せているのだろ。まるでブラックホールに吸い込まれる有人宇宙船の心地しながら。