古酒騒乱(坂井修一歌集)

この歌人は、ヒトやココロを「人」「心」とは書かないで、かな書きするんですね。一見堅牢っぽい題号とはうらはらに、かなが充実している。

 

呑兵衛詩人と解するのは早合点かもしれない。あとがきによれば、酒豪だった父親への対抗心で、若い頃は酒嫌いだったというから、(当時50代、今60代では嫌いではないという)作者のなかの父親像の変化や、老いて知る人間模様のなかに介する「酒のある風景」が色濃く出ているということなのだろう。

わたしが惹かれたのは勿論タイトルによるところ大なんだけれど、実際に心に深く刻まれたのは、こんな歌。

ねぶみして引くおいびとが「信」という「信」はイ(にんべん)から冷ゆるなり

 

信じる行為が冷めるのは、それに関わる人にたいする見方感じ方に変化が生じるところから始まるのだねえ。人への信頼感をこんな形で詠めるセンスにハッとしたのだ。



 

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