愛媛新聞に作詞家児玉雨子さんが採り上げてエッセイを綴っていた。「今なら炎上してしまいそうな文もある」というので読んでみた。わたしの知っている三島由紀夫とは趣のちがって戯けた、でも根っこは三島由紀夫らしい、じわりと刺さる短編集。冒頭「知らない男とでも酒場へ行くべし」の章で井原西鶴の『本朝二十不孝』に倣った作品だと手の内を明かしている。文中でも、いろいろ語句解説めいた文章があるが親切心まるだしなのは、少年少女にこそ読んでほしかったのだろう。
ことさらに不孝、不道徳を表立てることで、じゃあ本当の道徳って何だと読後にやんわり設問を置き去りにする感じ。紋切り型の道徳談義よりよほど人の道を考えさせる道徳読本だ。